壮絶! 生きてるタコを踊り喰い!……『オールド・ボーイ』(2003年、韓国)

2003年 韓国
監督=パク・チャヌク 出演=チェ・ミンシク ユ・ジテ カン・へジョン


復讐者に憐れみを』のパク・チャヌク監督の「復讐三部作」の二本目。同監督の新作『渇き』公開前の盛り上げとして、有楽町ヒューマントラストシネマで上映されていたので、見てきた。

えっとね……。凄いです。

いちばん度肝を抜かれたというか、眼をそらしてしまったのは、主人公(チェ・ミンシク)が、タコを踊り食いする場面。寿司屋のカウンターで、板前さんが、これどうですか? と生きてるタコをお皿に載せて見せるわけ。主人公は、いきなりタコの頭をつかんで、口の中に入れる。生きてるタコですよ。そのまま喰っちゃうの! 喰われるタコがもがいて、足が主人公のほっぺたにからみついて、それでも喰い続ける主人公の顔を、正面から撮り続けるわけ。んで、主人公は気絶するんだけどさ……。主人公が気絶しても、口から一本はみだしたタコの足が、まだ動いてるんだよ!

いろんな映画で、いろんな残酷シーンを見てきたけど……、今まで見てきたなかで、最兇の場面です! つっか、主役の人、偉すぎる!!!!!

んで、あらすじを書くと、娘を愛する平凡なサラリーマンが、なぜか拉致され、ホテルみたいな一室に監禁される。それがなんと15年! その部屋にはテレビがあって、主人公の妻は殺され、失踪したことになってる主人公が第一容疑者になってることを知る。

主人公はなんとか脱出しようと、15年かけて壁に穴をあけ、もう少しで脱出だ! となったところで、なぜかトランクにつめられて、外の世界に放り出される。ちゃんと着る物も、お金も、携帯電話も用意されていて、しかも、主人公がたまたま寄った日本料理店(タコの踊り喰いの舞台ね)に、若い美人の板前さんがいて、彼女は気絶した主人公を自分のマンションの部屋に連れて行き、しかもなぜか「あなたのこと好きになっちゃった」。んで、主人公は彼女の助けを借りて、自分を監禁し妻を殺した相手への復讐を果たすために、動き出し、血と汗とバイオレンス溢れる復讐劇が始まる……なんだけど。

主人公を助ける女板前を演じてるのは、『トンマッコルへようこそ』で、知恵が人より遅れ気味の女の子を演じたカン・へジョン。この映画がデビュー作(『復讐者へ憐れみを』でぺ・ドゥナ様がひどい目にあったように、彼女も裸になったりと、ほんとに悲惨な目にあわされます)。

彼女、顔の上半分はすごく美人なんだけど、口元がちょっと、知恵が人より遅れ気味の人っぽいので、まあ、彼女なら、目の前で生きてるタコを喰って気絶した男を好きになるかなってリアリティはなくもないんだけど、それにしても、話がご都合主義すぎないか、と疑問を抱きつつ見ていたんだけど……。

これがまあ、全部、ちゃんと理由があるんですよ! 「これが韓国映画特有のやりすぎ設定&超展開か?」って部分も、きちんと根拠を示してるんですよ! もう絶句するしかないんですよ! その後、金槌で人を殴ったり、ペンチで歯を抜いたり、自分の舌をハサミで切ったりと、ありえねーだろってバイオレンスが展開するし、主人公が女板前の処女を奪ったりして、頭くらくらしてくるんですが……すべてのグロい残酷シーンも、エロいシーンも、必然性がちゃんとあるんで、眼が離せないんですよ!

でもね……生きてるタコを踊り食いする場面だけは、必然性がない!


とまあ、あまりにも衝撃が大きすぎて、混乱した頭で書いてるんだけど……。

カンヌ映画祭クエンティン・タランティーノが絶賛しただけあって、傑作なのは間違いないです。演出も、『復讐者に憐れみを』の乾いたタッチにくらべて、カメラワークやカッティング、音楽に至るまで、これでもかこれでもかというくらい情念にあふれた熱い演出になっているし、暴力描写に至っては、爽快なくらい派手なんだけど……。

でも、個人的には、地味な演出の『復讐者に憐れみを』のほうが好きですね。

主人公のチェ・ミンシクも、彼を残忍にいたぶるホリエモンみたいな若造IT長者(ユ・ジテ)も、ヒロインのカン・へギョンも、みんな上手いし熱演なんだけど、なんてのかな……『復讐者に憐れみを』のソン・ガンホ先生や、何をやっても自然体のぺ・ドゥナ様や、シン・ハギュンに較べて、「こういう人、いるよな」感が希薄なんですね。『復讐者に憐れみを』に、ケレン味三倍増し的な派手さにはあふれているんだけど、ひとつ間違うと自分もこうなるかも……みたいな怖さは正直なかった。観客動員は、こっちのほうがはるかに上だったみだいですけどね。

ちなみにこの映画、ハリウッドでスティーブン・スピルバーグ製作&ウィル・スミス主演でリメイクが進んでいたけれど、韓国の製作会社が、原作(日本のマンガです)の版元の了解なしに契約を進めていたのが原因で、結局ダメになったみたいですね。でもさ、リメイクされなくてよかったと思う。こんな「イタさ」てんこ盛りの映画なんて、今のハリウッドじゃ無理(ウィル・スミスがタコの踊り喰いなんてするはずない!)。まして日本映画では……。

オールド・ボーイ プレミアム・エディション [DVD]

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