ポン・ジュノが『２０世紀少年』を監督をしていたら

昨日、テレビで『20世紀少年』第一章を放映していた。悪評はいろいろ聞いていたし、動画投稿サイトで一部観たことあったので、できあがりはだいたい予想していたが、予想以上に最低な作品だった。ひとことでいえば、原作漫画の動くダイジェスト版だ。あの膨大な登場人物（人物背景をさんざん描きこまれた挙げ句、いつの間にか消えてるキャラが大半）を漏れなくわんさか出してきて、その結果、原作を読んでいないぼくの家族は混乱するばかりで、ぼくがいちいち背景を説明しなければならなかったほどだ。
まあ、『20世紀少年』評は、以下のポッドキャストにお任せする。
http://podcast.tbsradio.jp/utamaru/files/20080920_hustler.mp3
http://podcast.tbsradio.jp/utamaru/files/20090221_hustler.mp3
http://podcast.tbsradio.jp/utamaru/files/20090829_hustler.mp3

ところで、この映画、当初、ポン・ジュノ監督にオファーがあったことはご存じだろうか。このブログでも『ほえる犬は噛まない』『グエムル　漢江の怪物』『母なる証明』を紹介した、かの韓国の鬼才である。ポン・ジュノ監督は浦沢直樹の大ファンで、『グエムル』の日本公開時に来日した際に対談している（参照）。対談でも語られているが、日常性と非日常性のギャップのおかしさを的確な絵でつかまえるセンスは、二人に共通する部分だし、それでいて本当の恐怖を描き出せる才能もある。さんざん盛り上げておいて、問題が解決しきれないまま放置する意地悪なやり方も似ている。もし実現できていれば、日韓をまたいだ最高のコラボレーション作品になっていたかもしれない。

上記の対談でポン・ジュノは、「20世紀少年」を片手に『グエムル』のシナリオを書いたと述べているが、確かに、両作は共通点が多い。そもそも、一見平穏な日常社会に突如として巨大な危機が現れ、それに対して警察や軍隊は役に立たず、普通のひとびと（『20世紀少年』の元原っぱ仲間たち／『グエムル』のダメ家族）が立ち上がらざるを得ないという物語の根幹からしてまったく同じだ。人類の「希望」である女の子（カンナ／ヒョンソ）は、どちらも親から捨てられた可哀相な境遇にもかかわらず。強さと優しさを兼ね備えてる。『グエムル』でも『20世紀少年』でも、作品中いちばんの賢者はホームレスだ。「ロックが世界を変える」とかつては信じていたが、今や世間の片隅でしがない男をやってるケンヂと、火炎瓶投げまくって反体制やってたおかげで今は酔っぱらいのニートでしかない『グエムル』のパク・ヘイルも似てる。ケンヂが最後は歌で世界を変えて革命の夢を実現させたように、パク・ヘイルもクライマックスでいきいきと火炎瓶投げまくってたなあ……。

結局、ポン・ジュノはオファーを断った。どうやら、スタッフやキャストは日本人で、という条件だったらしく、日本の映画製作システムで思い通り作品を作れるかどうか自信が持てなかったとポン・ジュノ自身が語っている（『ユリイカ』2010年５月号）。
もしポン・ジュノが監督していればなあ……と、無意味にカメラを動かしたがる堤幸彦演出のの間抜けで薄っぺらな画面を眺めながら、ぼくの脳裏にはポン・ジュノ版『20世紀少年』が流れる。主人公のケンヂはもちろん我らがソン・ガンホ。ユキジは小豆色のジャージを着たぺ・ドゥナ。今回は柔道でがんばってもらおう。ユキジの相棒の太った弁護士には、『ほえる犬は噛まない』でぺ・ドゥナの相棒だったコ・スヒ。また二人で酔っぱらってドロップキックでドアミラーへし折ってくれ。カンナは、もちろん『グエムル』の勇敢な中学生ヒョンソを演じたコ・アソン。神様と呼ばれるホームレスには、『グエムル』の父ちゃんで『ほえる犬は噛まない』で地下室で犬喰ってたヒョン・ヒボンじいさん。小泉響子は、『母なる証明』でジャンケン・セックスやってた馬鹿そうな女の子（名前知らない）。オッチョにはぜひチェ・ミンシク！（でもそれじゃパク・チャヌク作品になっちゃうか）。んで、「ともだち」の正体は最後までわからない……。

堤幸彦は、依頼が来たらなんでもほいほい引き受けちゃう使い勝手のいい監督みたいだけど（そういう姿勢がぼくらを苛立たせるんだけど）、ポン・ジュノだったらそうはいかないだろうね。原っぱの仲間は３人くらいに絞ってくれて、脇役も７人くらいに絞ってくれて、その上で、シリアスなのかコメディなのかよくわからない軽妙なタッチで人類全体にふりかかった悪夢を力強く（しかし、わけわからなく）描いてくれたと思う。クライマックスに、ステージの上でギターを振り回しながら歌うソン・ガンホは、ひとりで、『20世紀少年』の無意味な特別出演者50人ぶんのインパクトを残してくれたはずだ。映画はヒットしなかったろうけど、本当の映画ファンの心に百年残る傑作になったはず。

観たかった！　ポン・ジュノ版『20世紀少年』！