1人の「女優」と、彼女に先立たれた男たちの物語……『あんにょん由美香』(2009年、SPOTTED PRODUCTIONS)

2009年 SPOTTED PRODUCTIONS
監督=松江哲明 出演=林由美香 ユ・ジンソン いまおかしんじ 柳下毅一郎




久しぶりにレビューを書く。レビューというより、映画の中のあるジャンル……いわゆるポルノについての個人史がメインになりそうだ。


ぼくは、林由美香という女優さんには、「お世話になった」ことがない。
彼女がデビューしたのは昭和天皇崩御した1989年で、ぼくはその前年に社会人になったばかりだったから、むろん、いろんなAV女優さんにお世話になっている最中だった。だけど、なぜかレンタルビデオ屋の18禁コーナーにいっても、林由美香のビデオには食指が動かなかった。
若い、女性経験の少ない男性ほど、見かけにこだわる。林由美香は、確かに美少女ふうの容貌だけれど、体型は、いわゆる「昭和」型。小柄で手足は短く、やや寸胴、胸は小さく、頭は大きめ。この年になって、やっと彼女の体型の持つ味わい深さは理解できるようになったけれど、当時のぼくは、スレンダーな体型に大きなおっぱい、清純そうな美少女好きという、まあ、妄想の中での「理想の容姿」で女性を判断しがちな若造だった。すでに、小林ひとみとか、葉山レイコとか、人工的に整いすぎた容姿とスタイルの(和田勉いわく、サイボーグのようでそそらない)女優さんが多数デビューしていて、ぼくはそちらに夢中だった。林由美香の、生活感+実在感のあるエロスを感じ取るには、ぼくは幼すぎたのだ。


この映画は、1977年生まれ、林由美香がデビューした時はまだ12歳だった松江哲明監督によるドキュメンタリー映画だ。松江監督は、2000年に在日コリアンである自らの家族を記録した『あんにょんキムチ』でデビュー、韓日青少年映画祭監督賞、山形国際ドキュメンタリー映画祭アジア千波万波特別賞などを受賞した気鋭の映画作家在日コリアンのAV女優や男優についてのドキュメンタリー『アイデンティティ』(2003年。再編集して、『セキ☆ララ』と改題され一般劇場で公開)など注目作品を数多く作っているが、恥ずかしながら未見。今年DVD化された本作も、評判だけは聞いていて劇場で見たいと思っていたが、結局、今年になってDVD化されてから見た。

映画の冒頭近く、映画評論家の柳下毅一郎氏が、林由美香をこう評する。「彼女は、最後の映画女優ですね」。そのココロは、彼女の映画を見たいなあ、と思って探すと、必ずどこかの映画館で主演作が公開されている……そういう役者さんって意味で、最後の映画女優だと。

たとえば日本映画黄金期の1950年代後半、東映の白塗り美男スター中村錦之助は、年に十二本くらいの映画に主演していた。二番館、三番館も含めれば、確かにどこかの映画館では常に錦ちゃん主演のチャンバラ時代劇が上映されていた時代があったのだ。
林由美香は、1993年から亡くなる前年の2004年まで、年間10本以上(多いときは20本近く)のピンク映画に出演している(参照)。その傍ら、アダルトビデオにも数多く出演しているのだ。まさに、柳下毅一郎氏の言うとおり、90年代から2000年代前半にかけて、ビデオであろうと、スクリーンであろうと、林由美香に会いたければいつでも会える状況があったのだ。

そして2005年6月、誕生日の一日前に、彼女は自宅で遺体となって発見される。


ここで、アダルトビデオとピンク映画について、ごくごく個人的な印象を述べたい。

高校生まで、親が寝静まるのを待ってテレビのボリュームを絞って見た『イレブンPM』や『ウィークエンダー』等でしか「エロ」に接することのできなかったぼくは、80年代前半に上京し、大学一年生の時、はじめて先輩に連れられ、ポルノ映画館を初体験した。当時、すでにアダルトビデオが流通していたが、ぼくは貧乏でビデオデッキを買う余裕がなかった。ビデオデッキを持っている友人宅でアダルトビデオを見たり、勇をふるってピンク映画を見に映画館に足を運んだが、いずれにしても、一人でビデオを見ながら「お世話になる」状況とは無縁だった。

そんな程度の鑑賞歴しかないぼくが、アダルトビデオとピンク映画の違いを述べるのはおこがましいのだが、あくまでも個人的な印象で言うと、アダルトビデオにおいては、男優さんと女優さんが、ずっこんばっこんしている場面以外は、はっきりいって需要がない。早送りしてすっ飛ばす。極言すれば、アダルトビデオは「抜く」道具でしかなく、抜ける場面さえあればいい。だから、たいていのがアダルトビデオにおいて、ずっこんばっこんシーンと、ずっこんばっこんシーンとの間をつなぐ場面は、ひどくおざなりに作られている。そして、ずっこんばっこんやってる女優さんは、スタイルがよくて胸が大きくて美少女で、と外面だけ揃っていればオーケー、いわゆる演技力は必要ない。
ピンク映画はそうはいかない。「早送り」や「巻き戻し」ができないからだ。1時間余の上映時間のあいだじゅう、ずっこんばっこんシーンを続けるわけにはいかない。そればっかりだと飽きてしまうからだ。だから、日本のピンク映画でも、アメリカ等のハードコアポルノ映画でも(洋ピンと言われていた)、登場人物のキャラクター設定とか、ストーリー展開はそれなりにしっかりしていたように思う。


ちなみに、ぼくが最初に劇場で見たポルノ映画は洋ピンだった。『もっと汚い行為をして』というタイトルだった。タイトルクレジットで最初に主役として名前が出るのは、ジョン・レスリーという、庶民的な体型にイタリア系っぽいすけこましな容貌の男優さんだった。ちょっと奇妙に感じた。それまで、街中で見たポルノ映画の看板では(その頃は、女性が裸であえいでいる写真つきの看板がそこらじゅうに立っていて、ぼくらの妄想をかきたてたものだった)、日本の場合だと「畑中葉子の、後ろから前から」とか「美保純のピンクのカーテン」、洋ピンでも、「ジェニファー・ウェルズの」とか「アネット・ヘブンの」とか、女優さんの名前がデカデカと書かれる。男優さんなんて、主演女優の引き立て役なんだろうと想像していたが、この『もっと汚い行為をして』の主役は男優さんなのだ。その理由は見れば理解できた。
主人公のジャックは場末のバーテンダー。冒頭まず女と一発Hしてから職場に向かう。職場につくや、いきなり別の女に電話をかける。そして「また、したくなったぜ」。その女の家にゆくと、彼女は留守でティーンエージャーの娘がお留守番している。ジャックとしばらくおませな会話をかわした後、いきなりシャツを脱いで「私とHしない?」。ジャックはもちろん、愛人の娘とエッチする。バーのママともHするし、二人連れの女性客と3Pする。目をつけた女の家に配管工と偽って潜入し、彼女の下着を嗅いでいるところをメイドに見つかる。だが、メイドはとがめもせず、ジャックの前に膝まずき股間に顔を埋め……。てな具合で、とにかく出会った女はことごとくモノにするというオットセイのような最低男がジャックだ。彼の口癖は「彼女に俺のdickを吸わせたい」。やがてテレビスターのセレブ美女に目を付けたジャックは、彼女を征服すべく乗り出していく。
この映画には、その後、ぼくが何本か見た洋ピンに共通するエッセンスがふんだんに含まれていたような気がする。この最低男、自分から女性を口説いたりはしない。何もせずとも女性のほうがメロメロになり、自ら彼の股間に顔を埋めるのだ。彼女が顔を埋めているシーンは、埋めている女性ではなく、彼女に自分の股間に顔を埋めさせてご満悦の最低男の表情が中心に映される。要するに、「もてない男の最低なファンタジー」だが、他の洋ピンでも、女性が男性の股間に顔を埋める場面では、埋められる男性の顔が必ず映し出される。
一方、日本のアダルトビデオではどうだろう。ぼくが見た限りだと、埋められている男性の表情が映し出されることは滅多にない。ひたすら男性の股間に顔を埋めている女性が延々と映される。あるAV男優が監督から「存在感を消せ」と命じられて困ったというエピソードを語っていたが、要するに日本のAVにおいては、男優は添え物にすぎない。
また、洋ピンの場合、ずっこんばっこんなシーンは、女性がいきなり男性の股間に顔を埋める行為から始まることがほとんどだ。だが日本の場合、女性が男性の股間に顔を埋めるまで、男優たちがいろいろと手間暇をかけて女性を興奮させるべく奮闘する場面が描かれる。でカメラは奮闘する男性ではなく、しだいに興奮してかわっていく女性のほうを写し続ける。


乱暴な言い方を許していただければ、洋ピンは「女性に奉仕される男性」を描き、日本の作品は「男性に奉仕する/男性に奉仕さる女性」を描いているという図式が成り立つのではないだろうか。

これは、男女のどちらが優位に立っているかというフェミニズム視点で言うのではない。日本のピンク映画/アダルトビデオにも、たとえば乱暴な男が女性をレイプしたり痴漢したり縛ったりという作品はある(ぼくの好みじゃないので見たことがないけれど)。そういう作品においても(ぼくが見た数少ない作品においては)、画面に映し出されるのは、女性に暴行する男性ではなく、暴行される女性なのだ。


日本のピンク映画の歴史は、昭和20年代にこっそりと秘密上映されていたブルーフィルムから始まるらしいけれど、メジャーになったのは「日活ロマンポルノ」からだ。石原裕次郎宍戸錠小林旭ら大スターを抱え、ヒット作を連発していた日活は、1960年代に入って急速に衰退する。窮余の一策で打ち出したのが、ロマンポルノ路線。1971年の『団地妻 昼下りの情事』を皮切りに、アダルトビデオが普及する80年代後半まで、日本のピンク作品といえば、まず「日活ロマンポルノ」という時代があった。
こんな作品があった。タイトルは忘れてしまったけれど、ストリッパー出身でオナニークイーンの称号でデビューした清水ひとみが主演だった。彼女は、とある事情で、小松方正演じる政界のフィクサーに金で買われる。フィクサーの屋敷には、気の弱い秘書青年や、年増の愛人が同居していた。金も権力もあるフィクサーだが、唯一の悩みはインポテンツだった。愛人相手になんとかずっこんばっこんしようといろいろがんばるんだけど、結局できなくて「自分でやれ!」とオナニーを強要する。愛人は秘書青年を誘惑して逃げようとするが、気の弱い青年は逃げ回っている。そんな愛憎渦巻く堕落した屋敷にやってきたヒロインの清水ひとみは、処女だった。なんとか彼女の処女を奪おうとフィクサーは奮闘するが、彼女はあくまでも拒む。ついには鉛筆を股間に挿入し、自ら処女膜を破る。そんなこんなを繰り返すうち、政界の情勢が激変しフィクサーは没落。何もかも失ったフィクサーは、愛人と秘書青年がついに肉体関係を持った事を知って激怒、青年と乱闘の末、青年に刺殺される。断末魔にのたうちまわるフィクサーは、ヒロインに「オナニーを見せてくれ」と哀願。その願いに応えるヒロインを見ながらフィクサーは絶命。股間を勃起させて……。
粗筋だけ書くと無茶苦茶なストーリーだが、フィクサーの愛人が、一途に純情を守るヒロインに共感し、しみじみと会話する場面があったりと、なかなかドラマチックな作品だった(愛人を演じていたのは志水季里子。地味な容貌だが芝居はしっかりしていて、雰囲気ある女優さんだった。テレビドラマや実相寺昭雄監督作品の脇役でも一時活躍していた)。金も権力もある老人が、若い女性を征服しようとしつつ果たせず、最後に彼女に「征服」されて終わる。男の、うわべ的な強さと裏腹なもろさと、女の、うわべは弱いが、本質的な強さを強調するドラマになっていた。


全盛期の日活ロマンポルノには、予算やスケジュールはタイトだったが、かつて石原裕次郎主演映画に参加していたスタッフが残っていたし、いつか巨匠と呼ばれることを夢見て日活の門を叩いた若い監督たちが作っていただけに、単なるずっこんばっこん映画には終わらせないぞ、という意気込みが、そこにはあったような気がする。
そんな日活ロマンポルノからは、白川和子、宮下順子東てる美、泉じゅん、岡本麗、永島暎子、美保純といった、後には地上波ドラマやメジャーな映画でも活躍する女優さんたちが輩出した。東てる美は、大河ドラマ出演を経て橋田寿賀子大先生のお気に入りになった。永島暎子は、翳りのある面差しに包み込むような優しい笑みを浮かべる脇役として活躍した。それぞれ持ち味の違う女優さんたちだが、共通するのは「しなやかな強さ」ではないか。「若い頃はいろいろあったんだろうな〜」「だから、ちょっと優しい言葉をかければ、落ちるかもしれないな〜」と妄想を抱かせつつ、めでたく成就したとしても、最後はその「しなやかな強さ」に男性がひれ伏さざるを得ない何か。そういう「何か」を彼女たちは持っていた。

いや、逆かもしれない。女性に対して男性が抱く、抱きたがっている「何か」を表現しうる肉体と、知らず知らず発散される雰囲気を彼女らは持っていた。

男性は、単に「抜く」ためならば、カメラの前でにっこり微笑む水着の女性で満足だし、そういう水着のお仕事を専門としている女性と張り合えるだけの容姿の女性がずっこんばっこんしているだけで足りる。でも、それだけで彼女にしたりはしない。一過性の「道具」でしかない。


と、ここまでが前置き。長くてすみません。


この映画は、林由美香という女優に恋した、大勢の男たちの物語だ。1970年6月26日に東京都で生まれ、思春期に両親が離婚し、引き取られた先の父親が再婚して邪険にされて家出し、どん底生活の中で生きるためにアダルトビデオに出たという彼女の来歴は。その世界では「ありふれた」ものなのかもしれない。松江監督は、かつて、自分の作品を見てくれた林由美香から「まだまだね」と言われ、その一言がひっかかったまま由美香が亡くなり、ひっかかった思いを埋めるべく、彼女に関わった男たちを取材してカメラを回した。彼女が出た映画を演出した監督たち、共演した男優たち、不倫の恋の相手。
どんなハードな撮影現場でも、彼女は笑みを絶やさず雰囲気を盛り上げていった。その一方で、好きになった男性には体当たりでぶつかっていった。この作品は、彼女の死後、2007年に新宿ロストプラスワンで上映された『東京の人妻 純子』という韓国製ポルノ映画をめぐって展開する。韓国人のスタッフが日本でロケして撮影した珍品だ。舞台は日本で、林由美香演じる人妻の名前は純子だが、他のキャラは、韓国名だったり日本名だったり、演じる俳優も韓国人だったり日本人だったり、んでもって台詞は全部日本語、吹き替えではなく韓国人俳優がたどたどしい日本語を喋るのだ。
監督のユ・ジンソンは、90年代から2000年代前半にかけて、韓国でポルノ映画を数多く撮影した人らしい。そういえば韓流ブームの前、レンタルビデオ屋に韓国製ポルノ映画のビデオが並んでいた時期があった。かのヨン様のデビュー作を監督したこともあるらしい。
そのユ・ソンジンは言う。「彼女は、韓国人に対しても、先入観なしに向かってくれた」と述懐する。日本人の監督は言う。彼女は、自分を飾ることがなかった。自分を飾ろうとする人間っていやらしいじゃない。彼女は、そういうことがまったくなかった。


この映画には、彼女が出演したアダルトビデオ/ピンク映画の断片が引用されている。そこにある林由美香は確かに魅力的だ。出会った男性に恋してしまった一瞬の表情、傷つき怒りをぶつける時の切ない眼、そこにあるのは「むき出しな女」の強さ。だが、不倫相手のアダルトビデオ監督との自転車での逃避行の最中、疲れ切って母親に電話する由美香の言葉はどきりとさせる。「もう疲れたよ〜」「帰りたいよお」といった泣き言に続けて、「メロン送ったけど、食べた?」「冷やして食べてね」、でまた「疲れたよ〜」「帰りたいよ〜」。愚痴と、相手への気遣いが自然に交差する彼女の言葉を、松江監督は「?」と字幕をつけるが、これは向田邦子がドラマで使った手法と一緒だ。『阿修羅のごとく』(和田勉演出)の一場面で父親の不倫を相談しに集まった四姉妹の一人が、しまい忘れた鏡餅に目をやり、「あ、ヒビが入ってる」「これ、なんかに似てるわね」「あ、そだ。お母さんの足の裏」「あははは」「ちょっとぉ、話そらさないでよお!」というやりとりを彷彿させる。


『東京の人妻 純子』のスタッフはこんなエピソードを語る。当時の韓国ポルノ映画では、ずっこんばっこん場面では女優は前貼りするのが慣わしだったようだ。『東京の人妻 純子』では、林由美香は複数の男性とずっこんばっこん場面を演じるが、一人の韓国人男優を相手にする時だけは、前貼りをせず、いわゆる本番をやっていたそうだ。
その韓国人男優演じる不倫相手に裏切られたと知った由美香演じる純子が、「出てってよ!」と怒鳴りつけるシーンにぎょっとさせられた。大きく見開かれた眼に宿る怒りと悲しみ。その眼差しには、いわゆる「役作り」なんてものを越えた、普遍的な何かが宿っているようだった。


確かに林由美香は、上述したピンク映画の女優さんと同様、地上波でも活躍できる素質はあっただろう。あったが、彼女が亡くなった2005年あたりを境にして、「人生が始まった時期に深刻な傷を負わされ、その傷故の強い情念と、強い情念ゆえのしなやかな優しさ」を表現できる「ワケあり感」に満ちた女優の需要はなくなっていった。マネキン人形みたいな容姿に「消毒済み」の白いテープを巻かれているような女優さんたちの、うわっつらな芝居だけが画面を独占する時代において、林由美香がメジャーになる余地は、あるいはなかったかもしれない。それでもなお、男たちは、世間に「林由美香」という「女優」を刻印しようと足掻く。この映画が撮影されたのは2007年、一般公開されるまで2年の歳月を要した。


生身の林由美香は、男たちが恋した「林由美香」では、おそらく、ない。林由美香は、事前に台本を渡される余裕もなく、撮影現場に入って、いきなり監督の注文を素直に聞き、監督が意図した以上の演技を短時間で見せたらしい。撮影が終われば、打ち上げでは自ら場を盛り上げ、タイミングを見計らってさっと姿を消す。そんな女優だったようだ。
男たちは、生身の女性としての林由美香に恋したのではなく、おそらく林由美香が男たちの前で見せる振る舞いに恋し、彼女が時折見せる生身の女性としての「何か」が理解できず、理解できないまま彼女に先立たれ、その何かの正体が分からぬまま、心の奥底にわだかまりを抱いている。
この映画は、林由美香自身を描こうとした作品ではない。彼女に関わり、彼女に魅せられ、彼女に先立たれた男たちの物語だ。松江監督は、林由美香が歩んだ人生そのものを探ろうとはしない。貧しさと絶望から、金を稼ぐために多くの男性の前に裸をさらしてきた女性。そんな平凡なストーリーではなく、あくまでも、遺された男たちに食い下がってゆく。


なぜ、多くの男たちは林由美香に恋したのか。その答えは、↓の予告編動画の最後のほうで見せる、無邪気に手を振る林由美香の映像にこめられているのかもしれない。


男たちは、女優に、自分が抱える何かを投影し、何かを見ようとする。それに応えられるのが、本当の女優だ。
『東京の人妻 純子』のラストシーンで、男たちはヒロインを回想してつぶやく。「彼女は誰のものでもなかった」。
誰のものでもないが故に、みんなのものになりうる。それが女優なのかもしれない。



あんにょん由美香 [DVD]

あんにょん由美香 [DVD]

女優 林由美香 (映画秘宝COLLECTION (35))

女優 林由美香 (映画秘宝COLLECTION (35))

由美香 コレクターズ・エディション [DVD]

由美香 コレクターズ・エディション [DVD]